パクリタキセル(商品名:タキソール)
今回は、様々ながん領域で使われているパクリタキセルについて、注意事項を再確認していきたいと思います。
1.作用機序
パクリタキセルは、イチイの一種であるTaxusbrevifoliaの木皮から分離されたジテルペンditerpene誘導体アルカロイドです。
細胞周期をG2+M期でブロックします。
微小管重合を促進することにより、微小管の安定化・過剰形成を引き起こし、紡錘体の機能を障害することにより細胞分裂を阻害して抗腫瘍活性を引き起こします。
2.用法用量
非小細胞性肺がん及び子宮体がん⇒A法
乳がん⇒A法またはB法
卵巣がん⇒A法またはカルボプラチンとの併用でC法
胃がん⇒A法またはE法
再発又は難治性の胚細胞腫瘍⇒他の抗悪性腫瘍剤との併用でA法
再発または遠隔転移を有する頭頚部がん、再発又は遠隔転移を有する食道がん、血管肉腫⇒B法
進行又は再発の子宮頸がん⇒シスプラチンとの併用でD法
【A法】210mg/㎡を3時間かけて点滴静注し、少なくとも3週間休薬
【B法】100mg/㎡を1時間かけて点滴静注し、週1回投与を6週連続し、少なくとも2週間休薬
【C法】80mg/㎡を1時間かけて点滴静注し、週1回投与を3週連続する
【D法】135mg/㎡を24時間かけて点滴静注し、少なくとも3週間休薬
【E法】80mg/㎡を1時間かけて点滴静注し、週1回投与を3週連続し、少なくとも2週間休薬する
3.希釈液
生理食塩水もしくは5%ブドウ糖液が望ましいとされています。
4.前投薬
パクリタキセルの過敏症の予防のため、投与30分前までにステロイド+H1ブロッカー+H2ブロッカーの前投薬の投与が必要です。
初回はステロイドがなかなかの量になるので、糖尿病などの既往がないか事前に確認が必要ですね。
【A法】デキサメタゾン20㎎+ジフェンヒドラミン50㎎+ラニチジン50㎎又はファモチジン20㎎
【B法,C法,D法,E法】デキサメタゾン8㎎+ジフェンヒドラミン50㎎+ラニチジン50㎎又はファモチジン20㎎
デキサメタゾンは過敏症状がなければ8mg→4mg→2mg→1mgまで減量可能
ラニチジンは、発がん物質であるNDMA(N-ニトロソジメチルアミン)の検出により出荷停止となっていますね。
5.アルコール OK? NG?
210mg/㎡投与時のアルコールは、ほぼ500mLのビールに相当すると言われます。
ビール500mLってお酒に弱い人からしたら、相当な量ですよね?
「点滴してる時、ふわふわした」「気が付いたら寝てた」などとおっしゃる方もいます。
また、アルコールにアレルギーがある方はパクリタキセルの投与が難しいです。
なので、パクリタキセル初回投与時は、「アルコールにアレルギーはないですか?」と必ず聞きましょう。
外来で投与される際は、帰宅時に自動車の運転などされないように説明しましょう。
6.主な副作用
筋肉痛・関節痛、末梢神経障害、消化器症状、脱毛、発熱、骨髄抑制、肝機能障害、腎機能障害など
7.類似名称について
パクリタキセル(商品名:タキソール)とドセタキセル(商品名:タキソテール)は薬品名が類似していることから、処方間違いにより事故が報告されており、死亡に至った例があります。
調剤、監査時の確認が重要です。
8.投与時の注意
ポリ塩化ビニル(PVC)製の点滴セットから可塑剤[DEHP)(フタル酸(2-エチルヘキシル)]を溶出させることが確認されているので、可塑剤としてDEHPを含まない投与器具(ポリエチレン製など)を用いる。
パクリタキセルは過飽和状態にあるため、パクリタキセルが結晶化する可能性があるため、本剤投与時は0.22ミクロン以下のメンブランフィルターを用いたインラインフィルターを通して投与する。
9.他の抗がん剤との投与順序
シスプラチンと併用する場合は、シスプラチンの前に投与すること
シスプラチンを先に投与すると、パクリタキセルの排泄遅延が起こり、有害事象が増強される。
ドキソルビシン又はエピルビシンと併用する場合はドキソルビシンの後に投与すること
パクリタキセル→ドキソルビシンで投与した場合、ドキソルビシンのCmaxが70%高くなるという報告がある。
10.相互作用
CYP3A4ので代謝されるため、相互作用に注意
併用禁忌:ジスルフィラム、シアナミド、カルモフール、プロカルバジン